第 1 回

 随分長い間、タイに住んでいるなぁ、としみじみ思うことがあります。それはどんな事かというと…。
 例えばスーパーで、トイレットペーパーやティッシュが何個かまとめてパックしてあって、それがセールになっているのを見た時。昔のタイはなんでもバラ売りでした。町中の薬屋さんでは、薬は「何粒?」、バンドエイドは「何枚?」と聞かれました。銀色のお盆にザラザラと錠剤を並べて、ヘラみたいなもので数えながら袋に入れてくれるのです。「バンドエイドを下さい」と指一本立てたら、ひと箱ではなく1枚出された時は驚きました。トイレットペーパーもひと巻き売り、ティッシュもひと箱売りでした。道ばたではタバコも1本売り。箱に入ったティッシュはまだそれほど普及しておらず、たぶんぜいたく品だったのでしょう。あるタイ人の家におじゃました時、夕食をごちそうになりました。中国系タイ人で立派なお家でした。食事が終る頃、奥さんがポンとむき出しのトイレットペーパーをテーブルに置きました。家族はそれぞれ手にクルクルとペーパーを巻き取って口を拭いています。あれはショックでした。小さかった娘が「あれ?お口をおトイレの紙で拭いている!」と叫んだのです。その口を慌てて押えて、日本語が解るわけも無いのにやたらドキドキしたのを覚えています。

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 外に出れば、町中を歩いている女性のほとんどはバッグを持っておらず、これは一部のハイソな方たちだけのものだと教えられました。それも肩掛けの形しか売れない、腕にかける形はひったくりが怖いから持たない、そんな時代でした。今では199Bでおしゃれなバッグを買えるので、うちの従業員の女の子たちも、色々なバッグを持ちおしゃれを楽しんでいます。
 昔、20階に住んでいた頃、うちを訪ねてきた従業員はエレベーターが怖いからと階段をフーフー言いながら歩いてきました。みんなのんびりとしていて、いい時代でした。
 つい先日、あるエレベーターにタイ人と乗り合わせた時、そのタイ人は乗るなり「閉」ボタンを押しまくり…行き着いた階では「開」ボタンを押しまくり! 〝昔はこんなことなかったな〟 とちょっとびっくり。のんびりしたタイ人ばかりではなくなったのでしょうね。確かに便利になり、何でも手に入る今のバンコクは住みやすい場所です。けれどその便利さと引き換えに、確実に何かを失ったのだと思います。それが何なのか…目に見えるものだといいのですが。応々にして目に見えないものの方が、失った後に取り返しがつかない事が多いような気がします。今、タイはどこに向かって進んでいるのでしょう?私はタイが好きです。プラスもマイナスも全部まとめてタイが大好きです。
 だから心配です。

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