第 23 回

 洪水騒ぎの最中に、ベトナム行きが決まりました。今日行って明日帰って来るという、慌ただしいものです。いつもの運転手さんは2メートルの水の中に取り残されて身動きが取れず、仕方なく従業員のAのカレシに空港送迎を頼みました。Aのカレシは毎日仕事が終わる頃、車でAを迎えに来るので顔は知っていました。朝の5時に来てもらって空港へ。そして次の日、夜11時に空港へお迎え…というスケジュールでした。私にとって空港なんてほんの30分。〝ちょっと行ってきます〟みたいな気持ちだったのですが…。
 朝5時に店の前まで来ると、なんと彼だけでなくAも一緒にいるのです。それもバリバリにお洒落して!彼なんてムースで髪をピンピンに立てて、〝今、アップナームして来ました〟みたいに…。まだ暗い時間なのに、車の中に飾ったお花が光って見えました。それに、かわいいぬいぐるみと、ピンクのハート型のクッション!いつもは無いのになぁ。

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なにもここまでしなくても、と思いながら出発。「空港には行ったことがありません」と言うので、「道は教えるから大丈夫」と答えながら内心ビクビクです。ガンガンに音楽をかけて、飛ばす飛ばす。〝こいつ、もしかして元ヤンキー?〟(心の中のつぶやき)。お菓子とか飲み物とか、いっぱい持って来ているのはなぜ?「ちょっと暑いねぇ」と言うと、バッグから小型扇風機まで取り出してくるではありませんか!私はタイに長く、たいていの事は平気ですが、この扇風機には驚きました。なにゆえに、こんな物を持っているのだ?しかし私はタイ初心者ではありません。さりげなく「あっ、ありがと」と扇風機を受け取り、顔の前で何事もなかったかのように、スイッチを入れて風に当たっていたのでありました。すると、Aはお菓子を取り出して、「食べる?」とか、「水飲む?」とか、助手席でかいがいしく彼の世話をしています。私はそこに存在せず、あたかも2人きりのドライブのごとき空気です。(お金の掛からないデートだよね)。時々音楽に合わせて、「アゥ!」とか、「イェッ!」とか訳の分からない叫び声を上げ、2人で見つめ合ったりして。おいおい危ないだろうが。(これも心の中の叫び)。 2人のドライブも終わり、これから仕事に行く2人に別れを告げて、ドッと疲れている自分に気付く。やっぱりいつもの運転手さんがいいなぁ…。
 そして次の日の夜。空港に着いて待ち合わせ場所に行っても、彼の姿は見えず。ふと見上げると、上の階でまた2人寄り添い、夜景をじっと見てデートモードに入っています。まっ、いいでしょう。空港なんて来ることないだろうし、丁度いいデートコースだよねぇ。〝若者よ、青春してるなぁ〟なんて、おじさん風にまとめてみました。
 さて、このコラムを読まれるのはお正月ですね。皆さま、明けましておめでとうございます。今年もどうぞ宜しくお願い致します。この一年が、明るい年でありますように…!黄色も赤色もない、地震も津波も来ない、ましてや北の方から水なんか溢れて来ない、平和な一年でありますように!

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