第 40 回

 従業員のNのことは、このコラムに何度か書きましたが、またまた、Nの登場です。
 Nは本当にまじめで大人しい男の子です。うちに来た頃はまだ10代で、しかもイサーンから出たことがないという、「これで大丈夫か?」と思うような線の細い子でした。先輩に叱られると、精神的なアレルギーを起こしてしまい、何度病院に担ぎこんだことか…。タイ人には珍しいタイプです。フジスーパーで初めてチョコアイスを買って食べて、あまりの美味しさに四つも食べて、またまた全身にアレルギーのブツブツが出てしまい、夜の病院に飛んで行ったこともありました。自分を捨てた母親が年老いて頼ってきた時、コツコツと毎月送金して、何年もかけて家を建ててあげたN。弟はさっさと年上の彼女と暮らし始め、兄として、男として大きく後れを取っていたN。タイは結婚する時に、男性が女性の親に、結納金を払わなければなりません。それも結構な金額なので、若い男の子はお金がないと結婚できないと聞いたことがあります。けれど、それも男と女の力関係でクリアできることがあるんです。まァ、はっきり言えば『できちゃった婚』というやつです。親も許すしかないんですよね。なんと、Nがそれを実行しました!やるじゃん…。あの大人しいNがねェ。
 ある日、先輩に付き添われてNが来ました。一人ではとても私と話が出来ないのです(気が小さくて)。話の内容は、「彼女に子供が出来て、もうすぐ生まれるので田舎に連れて帰りたい。ついては、休みを下さい…」ということです。「どれくらい?」「二か月くらい」「いいけど、帰ってきても、もう君の席はないよ」「……」こんな具合です。(ちょっと! 産休だと? 二か月っておまえが産むんかい!)そんな話し合いの結果、とりあえず一週間、田舎に彼女を連れて帰ることになりました。そして、戻ってきてから毎日「いつ生まれるか」「まだか…」そんな会話が続いていたある日、とうとう生まれました、女の子! そうしたらNはいてもたってもいられません。24才と18才の親ですからねェ。少子化が懸念される昨今、これは喜ばしいことではあります。タイの少子化問題に、HATTORIは一役買おうではないか…! ということで、さっそく赤ちゃんの顔を見にNは田舎へ。また休み一週間。他のスタッフが苦労するのは分かっているのですが、誰も文句を言いません。それでも、どうしても人手が足りない時があります。すると、タハーンに奉公に出ている元スタッフを引っ張ってきました。二年前にタハーンに当たって(?)仕事を辞めたTですが、そろそろお役御免になる二年目です。お休みを取って、うちの手伝いにパタヤから飛んで来てくれました。年季明け(と言うのでしょうか?)には、またうちで働かせてくれないか…ということなので、OKを出し、とにかくNのいない一週間、キッチンに入ってもらいました。(注・タハーンとは軍隊のことです。タイには徴兵制度があり、タイ人男性は21才になると「くじ引き」によって徴兵が決まります。)タイ人って、こんな時優しいんです。忙しいのが分かっていて、一人抜けると他の人たちにかなり迷惑をかけるのに、誰も苦情を言いません。そしてNが帰ってくると、みんなで写真を見て大騒ぎです。「HIRONOさんの孫だ!!」と言われ、ちょっと嬉しい私。(HIRONOさんとは、私HATTORIのことです)これって初孫?あの子どもだったNがお父さんか…。そういえば、アレルギーも出なくなったなァ、Nよ。過ぎ去った日々の長さをしみじみ思ったりして…。私の周りにいる日本人の皆さんや、私を支えてくれるタイ人の人たち、タイのすべての神様や仏様に、感謝の合掌!! 今日も平和な一日でした。  (はっとり)

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