第 51 回

 今回はちょっと暗い話になります。私はずっとこの問題を書こうかやめようか迷っていました。けれど今日、一人の奥さんが来店されて長々と話をしていかれて、私はやっぱり書こうと思いました。彼女の事は、名前も、何処に住んでいるのかも知りません。けれど何回かショールームに来店されてお話をした事があったので顔は分かっていました。彼女は私の顔を見るなり「私の事、テレビで見た?」と聞いてきました。(え?タイのテレビ?)と私は驚いてしまいました。すると彼女は言うのです。「ネットでもテレビでも私の顔がずっと大きく出ているから、みんなが私を知っている。ここの従業員も私を見てる。ほら、あの人も私を見て笑っている」私はまだこの時、事の重大さに気付きませんでした。ただ顔を引きつらせ、涙声の彼女に「ちょっと落ち着いて話をしましょう」と座ってもらいました。彼女は店の中でも周りをキョロキョロと見回し「あの人も私を見てる。日本人もテレビを見てるから私の事を知っているに違いない」と言うのです。私はまだ二、三回しか話した事のない彼女が、どんな性格なのか解らないし、どんな生活をしているのかも知らないのです。ただ御主人とタイ駐在一年か二年位だという事は分かりました。私が「何が怖いの?何が問題なの?」と聞いても彼女の答えは一貫性が無く、どうもよく理解出来ませんでした。(これは・・・只事ではない・・・)「中国か韓国のメディアが私を狙っている」とか「私の周りに常に電波が張りめぐらされていて、私が外部と接触出来ないように妨害電波を出す。だから私の住むマンション全体が雑音で混乱している」「テロの手先にされかけている」とか。(ちょっと待って、私にはよく理解できない)「今、忙しいから今度ゆっくり話しましょう」と私は言いました。他のお客様の注目が集まってきて、彼女の為に良くないと思ったからです。彼女は震えながら両手で顔を覆って半狂乱なのです。彼女は信じきっているけれど、他の人から見ればどう考えても??な話でしょう。実は以前も、ある男性のお客様がお一人で食事をされていて、私に声を潜めてこう言ったのです。「この店でC.I.Aが私を監視している。後をつけられそうだから、私が外に出た後で誰も追い掛けて来ない様に見張っていてほしい」翌日、その男性の上司の方から電話がありました。「HATTORIでC.I.Aに見張られていた。と彼が言うのですが、そちらに迷惑を掛けませんでしたか?申し訳ありませんでした。彼は日本に帰します」
 色々な事があります。慣れない外国の生活で心を病んでしまった人もいるでしょう。その時、SOSを見逃さずに対処できたら最悪の事態は避けられるかもしれません。今までに最悪の事態が何度かあったのです。ここバンコクで。
 どうか身近にいる家族や、友人、会社の知人、みんなでSOSを見逃さないで下さい。ずっとこの事が胸につかえていて、書こうか、どうしようか迷っていたのですが、今日の彼女を見ていて、やっぱり書こうと思いました。彼女は本当に怯え、苦しんでいます。何回かしか会った事のない私に、SOSを発していたのかもしれません。でも私には何も出来ません。どうか御主人が気付きます様に・・・!!
 心の病気はタイでは治療が難しいのではないかと思います。言葉の問題があるからです。早く帰国して、彼女の苦しみを少しでも取り除いて欲しいと心から願います。その為にも、周りの人達が彼女の異変に気付いてあげる事が大切です。彼女は御主人と二人暮らしだとか。どうか、どうか、御主人が早く気付いてくれますように・・・そして彼女が、一日も早く心の平和を取り戻せますように・・・。  (はっとり)

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