用がないなら話しかけないで

 突然ですが、中学の同級生に、キュウちゃんとシマムラ君という男子生徒がいました。ある日、授業中に他の教室の前で二人が騒いでいたとかで、先生がもの凄い勢いで二人を呼びつけて叱りました。その先生はゴンちゃんとよばれていて(姓がゴンノジョウというのです)、皆に好かれていました。私たちクラスメイトの前で二人は10発以上、ホッペを叩かれて、キュウちゃんはメガネをふっ飛ばし、シマムラ君は唇を切るという騒ぎでした。ひたすら謝る二人を前に、ゴン先生は叩くのを止めませんでした。本当に怒っていました。目の前で人が叩かれるのを見たのは初めてという女子生徒は青ざめ、怖くて昼食も食べられないほどショックを受けました。 でも、そんな事件があった後、ゴン先生を悪く言う生徒はいませんでした。当のキュウちゃんんとシマムラ君も変わらずゴン先生が大好きでした。卒業式の日、二人は泣きながらゴン先生に頭を下げていました。
 近年、新聞を賑わしている『体罰』と、『躾(しつけ)』とは、どこが違うでしょうか?最近の、先生に向かって「死ね、チビ、ハゲ、デブ!」と平気で言う生徒の心はどうなっているのでしょうか? 先生にそんな暴言を投げつける子供を育てた親に責任はないのでしょうか。
 暴力は許されません。けれど、しっかりとした信念と愛に裏付けられた『しつけ』までも頭から否定して。騒ぎ立ててもいいのでしょうか。私には解りません。体罰と躾の境目が難しいのかもしれませんが、ちょっと話しかけると、「知らない人と口をきいちゃいけないって、学校からも親からも言われているので…」という子供がたくさんいる今の日本。たしかに子供は守らなければならない。子供を巻き込んだひどい事件が多発しているのも確かだから。臆病になるのも仕方がないでしょう。
でも…。 私が子供だった頃、大人はみんな怖い存在でした。悪い事をしたら叱られるのは当たり前で、今の教育委員会で問題になるような先生もたくさんいました。でも先生は『先生』で。学校の事で親も子供も何も言いませんでした。 誰が悪いとか、そういうんじゃないのだけれど、いつからこんなふうになっちゃったのでしょう。
 以前に日本に帰国した時の夜、街でこんな時間に小学生が何をしているのか不思議に思って「君、どこに行くの?」と訊いたら、「何か用?用がないなら話しかけないで。知らない人と口きいちゃダメって言われてるから」と冷たく答えられました。これが今の日本の現実かと思うと何か悲しいです。確かに私だって娘に対して「知らない人に付いていっちゃダメ!」と教えて育てたのですから、解らなくもないのですが…。
 最近の日本の新聞を読んでいると、イジメや体罰、幼児虐待、そんなことばかりが目立つ気がして、本当に暗~い気持ちになる今日この頃です。  (はっとり)

h52