女性版・インディジョーンズ

 中東に出張されていた方が久しぶりに来店されました。「いや~、怖かったよ。町から現場までプロペラ機で、この運転(操縦ではなく運転)がすごいのなんの。雨雲をひょいひょい避けながらジェットコースターみたいに飛ぶんだよ!」その話を聞いて私はずっと昔に同じような経験がをしたのを思い出しました。
 あれは、南米のグァテマラでの事でした。私はグァテマラのジャングルの奥にある古代遺跡のピラミッドを目指していました。そこへ行くには現地のプロペラ機に乗るしかないのですが、飛行場はただの野原で、チケットはどこで買うの?そこへヨタヨタとした感じの旧式なプロペラ機がやって来ました。「まさか、これに乗るんじゃないよね…」私は飛行機のような重い物体が空を飛ぶなんてとても信じられない、というアナログ人間です。飛んでいるのは何かの間違いで、正気になったとたん落ちちゃうんじゃないか…といつも思っていました。しかし、目指すジャングルのピラミッドまでは道がなく、空を飛んでいくしか方法が無かったのです。「神様仏様、どうぞこの飛行機が正気に戻らずに飛んでくれますように…」と心の中で祈りました。乗客は現地の人たちばかりでのんびりとした雰囲気ですが、私ひとり、座席にしがみついていました。だって、シートベルトは壊れていて使用不能だし、乗務員からの案内や注意事項は何もないし。
 飛び立ってから窓から見下ろす大地は一面のジャングルで、こんなところになぜピラミッドがあるのか、とても不思議でした。大昔には国があってたくさんの人々が暮らしていたであろうこの地は、今は人跡未踏のジャングルとなって人間の侵入を固く拒んでいるようでした。そんな感傷に浸っているうちに飛行機がガタガタと揺れ始め、それはエアポケットに入った時のドスン!としたものではなく、例えて云うなら、空気の抜けたタイヤで田舎道を無理に走っているような…。またある時は、浅草の花屋敷のジェットコースターに乗っていて突然下り坂に入った時のような。 バタンバタンと、壊れている操縦席のドアが開いて運転士さんがまる見えですが、陽気に何かわめいていて(歌っている?)片手に持っていた缶ビール(飲酒運転!)を床に置こうと体を倒した瞬間、機体もつられて傾いて置いた缶ビールがゴロゴロと客席まで転がって来ました。残っていたビールがこぼれて床に流れます。お客はいっせいに足を上げて流れてくるビールを避けます。この世の終わりかと、私はパニックでした。
 なんという世界だと私は変な感激をしながら到着しました。滑走路はジャングルの一部が平にならされていて、といっても木がないだけで草がぼうぼうと生え茂っている地面に見えている二本の線の上にきっちりと着陸しました。この運転士さんはもの凄く腕がいいのかも…と思いました。と同時に、出発時にホテルを予約しようとして誰からも相手にされなかったわけが分りました。着陸した青空飛行場の隣に一軒だけ、ヤシの葉で屋根を葺いた小屋がホテル?でした。ここまで来るには5、6人しか乗れない旧式のプロペラ機だけ。それが1日1便だけ。従ってこのホテルが満室になることなどほとんど無いわけで、いつでも泊れるということです。そんな物好きもほとんどいないのですが…。というわけで、プロペラ機の怖さを身をもって知る私には、中東から帰って来たお客様の体験がよく解り、バンコクの夜は平和に過ぎていくのでした。  (はっとり)

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