いろいろあってもタイが好き

 常連のお客様にBちゃんという6歳の男の子のいるご家族がいらっしゃいます。Bちゃんは赤ちゃんの頃からよく来てくれて、私の仲良しです。私が座っていると顔を覗き込んだり、ちょんちょんと腕をつついたり、けっこういたずらっ子です。Bちゃんは障害を持って生まれてきたので口がきけません。だから、私はBちゃんの声を聞いたことがないのです。それなのに、いつも私はBちゃんとお話をしています。先日、Bちゃんはトコトコと私のところまで来て、背にしょったバッグを誇らしそうに見せるのです。『あら、新しいバッグ!!どうしたの?』すると、Bちゃんは私の胸に顔をスリスリして抱きついてきました。新しいバッグを買ってもらってよほど嬉しかったのでしょう。お母さんがおっしゃるには、勉強を初めるとのこと。そうか…Bちゃん、春の巣立ちだな…!!
 お母さんもご苦労がたくさんあったでしょう。そして、今、きっと不安で胸がいっぱいなはず。Bちゃんがいつも注文する【お子様ランチ】も、もう卒業する時期がきました。(なんだか、おばさん胸がいっぱいだよ…)うちの店でお子様ランチを卒業していった子は本当にたくさんいました。でも、Bちゃんはいつまでも……と思っていた私ですが、やっぱりBちゃんも大きくなったんだなぁ…と、ちょっぴり寂しい気持ちもあります。
 Bちゃんはこれからもずっとタイで暮らしていくそうです。お母さんはこんなことを言っていました。『この子を育てるのに本当にタイで良かった。タイの人たちは【同じ】でなくても受け入れてくれるから』
 そうなのです。ここはタイ。男も女も、オカマもトム(トム=女性が男性のようになっている状態、オカマの逆の意味)も自由に生きている国です。だからBちゃんも明るく育っているのです。うちの従業員にNという10年選手のお局さまがいるのですが、この彼女、生意気で口うるさくて、若い子たちからも慕われながらも、うっとおしがられているのですが、とにかく【これぞタイ人!!】とういう感じなのです。噂が好きで、感情の起伏が激しくて泣き喚くけど、立ち直りも早い。そしてやさしい。この彼女がBちゃんと仲良しなのです。いつも店の前で見かけると声を掛けるし、帰るときもバイバイと手を振り合っています。とにかくNのBちゃんを見る目は優しいのです。言葉が無いせいか、他の従業員たちはどうしていいのかわからないようで、ちょっと引き気味なのに、NはいつもBちゃんに話しかけ、笑い、楽しそうなのです。だから私はNが少々生意気でもうるさくても、許してしまうのです。Bちゃんに優しいから。Bちゃんと仲良しだから。友だちの友だちは友だちだ!これだけ長くタイに生活していると、いい所も悪い所もわかっているつもりです。正直、きついこともありました。でも、いろいろあっても結局許してしまう、なんだかんだと言っても好きな場所なのです。私にとってタイとはそんな場所。私とNの関係も同じです。腹が立つ、??る、忘れる、頼りにする、時々かわいい、うっとおしい…あー!そんな感情がせめぎ合って毎日を暮らしています。疲れる!!でも、Bちゃんを見つめる暖かい目がある限り、私はここに住み続けたい…と思っています。

(はっとり)

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