あれから時は流れて…

 12、3年前のことです。ある日の昼下がり、ランチタイムの忙しさもひと段落してのんびりとしていました。すると、若いお母さんが入ってこられました。両手に2人の幼児の手をひいて、背中には赤ちゃんをおぶっていました(2人は双子ちゃん)今時、おぶいひもで赤ちゃんをおぶっているのはめずらしく、なんだか私は嬉しくなってしまいました。その若いお母さんは「お茶でもいいですか?」と聞かれました。「いいですよ」と言うと、2人の幼児を座らせて、背中の赤ちゃんを降ろし「あー!大変ですね」という私に笑顔で答えました。「そうなんですよ、ここのランチのサイコロステーキがおいしいと友達に聞いたんですけど、この通りゆっくり食事なんて出来ないでしょ。諦めてたんですけど、シュークリームだけは食べたいとずっと思っていて。ランチタイムを過ぎればお客も少ないだろうと、決心して今日やってきました。」若いお母さんは体力もあるけど、なにより元気がいい!今、身分の置かれている現状を素直に受け入れ、やれる事を精一杯やっている。見ていて気持ちが良いと思いました。「今頑張れば、そのうち楽になるって親に言われて。今はとにかく夢中で毎日過ぎています。」と彼女は言いました。メイドさんが掃除をしてくれるだけでも凄く助かるので、その時間に思いきってフジスーパーまで買い物に来てみました…と。そして、前から食べたかったシュークリームを今日は2つも食べられた、と幸せそうな笑顔でした。
 帰って行く後ろ姿はたくましい【お母さん】そのものでした。背中にはおぶった赤ちゃん、ななめがけしたバック、両手にはフジスーパーの袋。その袋の端をしっかりと握った幼児が2人。たしかにおしゃれはできないでしょう。髪もゴムでひとつにくくっていました。お化粧もなし。もちろんマニキュアなんて論外。でも若いお母さんかわいかったなぁ…とっても。
 と… 時は流れて、先日のことです。その彼女がランチに来られたのです。すごく久しぶり。きれいに染めた髪をアップにして、ピアスも揺れていて、ピンクの口紅がきれいでした。あれから12、3年。もうあの時の赤ちゃんが小学生を卒業するくらいに時は流れていました。おしゃれする余裕も出来たのね…ずっとタイで暮らしていたのか、それとも再赴任なのかはわかりませんが、あの時の若いお母さんがきれいに変身して目の前にいました。苦労が3倍の幸せになって返ってきた感じでした。彼女は「あの時のこと覚えていますか?本当はちょっとめげてたんです。ハットリさんが子供に『お母さん頑張ってるんだよ、大きくなったら親孝行するんだよ!!』って言ってくれたじゃないですか。まだ2才の子供と赤ん坊に!!この人へんなの…と思っちゃいました。何言っても分かる訳ないのに。でもうれしかったです。なんていうか…ちゃんと私のことを見ててくれる人もいるんだと思えたんです。」そんなこと言ったっけ…?と、私はすっかり忘れていました。年をとると都合の悪い事は忘れてしまうこの頃ですが、あのときの若いお母さんのことは覚えていました。でも本当に良かった。頑張ったね…。なんだか目の前のあなたをぎゅっと抱きしめたいハットリでした。

(はっとり)

h84