カツ丼慕情 (2度のトラウマ)

 何年か前のことです(もちろんタイでの話)テレビを見ていたら「カツ丼と天丼、どちらがうまい?」という番組がありました。
私は単純人間です。そのときから私の頭の中には「カツ丼」がチラついて離れませんでした。次の日、さっそくある日本料理屋さんに行きました。まだ開店して間もない新しい店でした。「カツ丼!!」と注文して待つこと30分…。まだ?ちょっと遅くない?まだ馴れていないのかも…などと考えていると、
一人の男性がやって来ました。「おっ、来たぞ!!待ってたよ」と心の中で私。友人のほうは同時に注文した天ぷらうどんをもうとっくに食べ終わっていました。まだ若い彼がオーナーらしく、「はい、どうぞ。」と差し出したのは…天丼?いや、エビフライをごはんの上に乗せたのだから天丼じゃないよなァ…「あのー、カツ売り切れちゃったのでエビを乗せておきました」…ここはタイ。でもあなたは日本人。「はァ?」私は次の言葉が出ません。だって、数日前に医者から(エビ・かに・たこ・いか)は控えるようにと言われたばかりだったのです。でも、怒って文句を言う雰囲気じゃなくて、あまりにも当たり前、自然に、(カツが無いからエビ)だったので私も「ま、いいか」と、つられてしまいました。でも、でも、私の中でカツ丼はふくれあがっていくばかり。 次の日、再度挑戦。別の店に行き「カツ丼!!」と注文。友人はサバ定食。待つことしばし。出てきたのはサバ定食とカレー。なんで?どうしてカレー?私はウェイトレスに「私はカツ丼を注文した!!」と抗議しました。
すると、隣の席でビールを飲んでいた男性が立ち上がって歩いて来て言ったのです。
「私、ここのオーナーだけど何か問題あった?」私はてっきりお客だと思っていたのでびっくり。でも私の中のカツ丼が「負けるな!」と囁くので、がんばって言いました。
「私はカツ丼が食べたいんです。それなのにミスオーダーでカレーが来ました。私は今、カツ丼が食べたいのです。」すると、ちょっとコワもての彼はニヤっと笑って「あ、そう。でもうちのカレーもうまいから食べてって。」それだけ言うと席に戻りビールを飲み始めました。それ以上言える雰囲気じゃなかったのでカレーを食べ始めましたが、これがまた、私にケンカを売っているとしか思えないニンジンの山。私はニンジンが天敵なのです。絶対に食べられないニンジン。
お前は子供か?と言われ続けた私の人生。でもダメ。私は諦めてチェックしました。
 カツ丼とカレーはどちらが高いのかわかりませんが、勘定書きにはKATSUDONになっていました。その日から私はカツ丼を食べていません。(この2軒とも、今はもうありませんが)2度のトラウマが3度目の挑戦を阻止するのです。
 そして時が流れ…。先日のことです。常連のAさんに誘われて新しくオープンしたとんかつ屋さんに行ってきました。オーダーのとき、本当に悩みました。カツ丼…いや、ロース定食…いや、やっぱりカツ丼…いや、ダメ。ロース定食。2度あることは3度あるっていうしなァ…散々迷って私はロースカツ定食にしました。ソイ39の武蔵というとんかつ屋さん。おいしかったです。迷ってごめんなさい。次は絶対カツ丼にします。おいしいカツ丼食べさせて下さい。武蔵さん。

(はっとり)

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