小姑だけど、タイ人は有難い

 うちの従業員で一番の古株が「S」です。彼はまだ10代の頃にイサーンから出てきて、うちのキッチンに入りました。あれから20年以上経つのだと、ちょっとびっくりしてしまいます。子供だった彼も、もう一人前のシェフです。給料だってそこいらの若い子の何倍も稼いでいます。バイクを買い、ピックアップの新車を買い、イサーンの彼の村ではちょっとした出世頭です。しかし、恋人が浮気して別れた時など、私の前でオイオイと泣きじゃくり、「男がそんなに泣くなよ…」と、私は内心あきれてしまいました。田舎の母親が危篤であわてて帰郷し、何日か後に亡くなった時も、実家からの電話であまりに泣くので私もつい、もらい泣きしてしまいました。
 そして、今の日本で、母親が亡くなった時にこれほど手放しで泣ける息子がいったい何人いるだろう…?そんなことを考えてしまいました。
 先日、私が使っていたキーホルダーが壊れてしまい、新しいものと取り替えたのですが、私は物を捨てません。これもタイに住んで学んだことのひとつです。
まだ使える物、気に入ってはいないけどダメになったわけではない物、そういったものは置いておきます。目につく所に何気なく「もう使わないけど…」と言いながら。そのキーホルダーもたくさんあるフックの一つが甘くなってしまっただけで、まだ充分使えるものでした。
 その日の夜、仕事が終わってみんなが「サワディーカー」と帰って行きましたが、従業員の「M」がニコニコしながら寄ってきて言いました。「これ、また、おそろいだよ!」見ると私が手放したキーホルダーを使っているのです。それと一緒に、以前私が使っていたお財布が…。私は気に入ると色違いでいくつも買って使うので、Mが持っているキーホルダーもお財布も、今の私のものと色違いなのです。ちょっとすり切れたり、あまり綺麗ではなくなったりすると私はみんなの前で中身を入れ替えて、いつものところに置いておくのです。誰か欲しい子が使えばいいと…。
 以前、要らなくなった物をポイ捨てしようとして、「捨てちゃダメ!」とみんなに叱られて、それからは気をつけています。(まだ使える物は捨てない、当たり前のことなのに) でも、時として危険でもあるのです。本当に捨てたい物、人の目に触れさせたくない物って、ありますよね。そんな時は本当に気をつけて捨てなきゃならない。とにかく、みんなの目が私を見つめているのです!ちょっと出かけようとすると、「どこに行くの?」、「誰と行くの?」…。お前たちは小姑か!と何度つっこみを入れたかったか。けれど、それもこれも頼りない『クン・メー(お母さん)』を心配してのことなんだけど…。分かってはいるんだけどね。 母親を亡くして手放しで泣ける「S」。私のお下がりをこんなに喜んで使っている「M」。母の日にはお金を出し合って大きな花カゴを私に贈ってくれるみんな。
 楽しいことばかりではなかった私のタイ生活の25年を、こんな子たちが支えてくれていたのだと、今さらながらに思います。どんなに偉そうなことを言っても、周りにサポートしてくれるタイ人がいなかったら、私たち日本人は何もできないのです。(特にタイ語の読み書きができない身には) 改めてそのことを肝に銘じて生活しようと思います。好きになってもらうには、まず自分から好きにならなきゃ…。 日本人のAさん(仮称)、グチと悪口ばかりではダメですよ!だからあなたはタイ人から嫌われるのです。あっ!また言ってしまった…!

(はっとり)