打ちっぱなし

第68ホール チームジャパンNo1,
チームジャパンNo1,期待の新星・川村昌弘
このコラムが掲載される段階で「フライズ・ドットコムオープン」で開幕しているPGAツアー2014シーズンですが、日本からは松山英樹がいよいよ米ツアーに本格参戦となり、ツアー2年目となる石川遼も、今大会で新シーズンを迎えることとなりました。PGAツアーは次週「シュライナーズ・ホスピタルズ・フォー・チルドレンズオープン」をラスベガスで行った後、「CIMBクラシック」をクアラルンプールで戦い、「WGC-HSBC選手権」は上海とアジアを転戦します。その後「マクグラドレークラシック」、「OHLクラシック at マヤコバ」と舞台を移した後、オーストラリアでの「ワールドカップ」を行い、約1か月のオープンウィークに入ります。
PGAツアーのシードを獲得した松山ですが、シード権確定前の「全米プロ」開幕時には「シードのことを考えると、賞金がゼロではダメ。まずは予選通過をしなくてはいけない」と目標を掲げていました。最終日を迎えるにあたり「昨日は通算2アンダーがトップ10くらいだったので、今日は1日5アンダーを目指してやっていた」とも語り、「昨日までのフェアウェイキープ率は1位ですよね。でも今日はたったの4回でしょう?」と、自身のデータを挙げ反省もしていました。松山の今季PGAツアーにおける最終ラウンドの平均スコアは68.8と、ツアーの正式メンバーではないため「参考記録」ですが、今季5回以上最終ラウンドを戦った米ツアー選手のランキングと照らし合わせると、1位に相当する素晴らしい成績でした。自身の目標を見据え、終盤にスコアを作れるのは凄いことです。
「全英オープン」で、スロープレーでペナルティを科せられた松山ですが、またしてもスロープレーで問題を起こしました。松山がプレーオフで優勝した「フジサンケイクラッシック」で横尾要、松山、S・J・パクの最終組が9番ティに向かう際、競技委員がスロープレーを注意したのですが、注意を受けたのにも関わらず急いだのは横尾のみで、松山とS・J・パクは一向に急ぐそぶりを見せなかったといいます。横尾からすると9番でティグラウンドに向かう際に競技委員がから「11分遅れています」とスロープレーによる注意を受けた際に「5番のティグラウンドで前の組が詰まって待っていたのに遅れているって言い方はないでしょ」と納得しなかったようですが、自身は走りだし急いだのです。しかし、同伴の松山、パクにも同様の注意がなされたにもかかわらず2人は一向にペースアップしなかったということです。そこで横尾は10番で競技委員に「誰が遅いか計測してくれ」と詰め寄ったのですが、競技委員は明確な決定を示すことなくプレーは続行され、結局2人の「プレースピード」は最後まで上がらず、一人急いだ横尾が脱落してしまったのです。
トータル7アンダーの6位タイに終わった横尾は「言い訳になるからあんまり書いてほしくない」としながらも「今の若いやつはみんな遅いよ。ホールアウトしたら言ってやろうと思ったけど、プレーオフになっちゃったからね」と同伴の2人のスピードの遅さと、競技委員の対応も問題視していました。「日本の競技委員は甘い。あんなの米国だったらすぐにペナルティ。日本ではあれを見逃しているから、松山が全英でスロープレーをとられたりするんだよ」とスロープレーの原因に厳正に対処しない競技委員にも一石を投じています。プロ、アマを問わず「プレーファスト」はゴルフプレーの大原則です。時間をかけてもいい場合と、かけてはいけない場合をプレーヤーが判断しなくてはいけないのですが、遅れた選手に罰則を適用していくのは当然で、世界のゴルフ界では当たり前にやっていることを、日本でもやっていかなければ、世界で通用する選手は育たないでしょう。
松山自身は「全英オープン」でスロープレーによるペナルティを受けたことで「急いでいる」と語っていますが、飛距離が出るので後から打つことが多い松山が、同伴競技者が打ってからクラブ選択をキャディとしているのを見ていると「スロープレー」と見られても仕方ありません。PGAツアーに参戦した先輩でもある横尾の「苦言」をしっかりと受け止めてほしいものです。
今年の「全米オープン」ではタイガーやアニカ・ソレンスタムが「スロープレーをなくそう!」と映像で語りかけるキャンペーンを実施している米国で戦うには、決して早いとは思えない松山のプレースピードは、改善が必要なことは間違いありません。ツアー全体でスロープレーを問題視している中で、ルーキーがこれまでと同じようにマイペースでプレーを続け「スロープレーヤー」のレッテルを貼られるようでは、良い成績を残すことは望めません。
毎年5月に「ザ・プレーヤーズ選手権」が開催されるフロリダ州のTPCソーグラス。石川は米ツアーフル参戦1年目のシーズンをこの地で終えました。しかしその舞台はアイランドグリーンでもおなじみで華やかな「スタジアムコース」ではなく、その隣にひっそりとたたずむ「ダイズバレーコース」でした。来季のPGAツアー出場権を争う下部ツアーの最終戦「ウェブドットコムツアー選手権」が、石川の今季最終戦になりました。「フェデックスカップランキング」で、フルシード獲得の125位に届かなかった石川(141位)は、今年から新設されたウェブドットコムツアーとの入れ替え戦「ファイナルシリーズ」4試合へ向かうことを余儀なくされたのです。
第1戦は「気合いも入っていたし良い準備も出来ていたけど、それがゆえに空回りしてしまった」と、調子が上向いていたにもかかわらず、初日のボギースタートから流れが作れずまさかの予選落ちでした。「初戦で痛い目にあって気付かされた」と、その後は「気持ちのコントロール」を意識したラウンドで、第2戦で5位、第3戦で7位タイと本来のプレーを取り戻し、来季シードの条件である賞金ランク25位以内というシード獲得のための最低条件を、最終戦前にクリアし手見せたのです。
最終戦はさらにどれだけ優先順位を上げられるかをテーマにスタートしたのですが、スタート前のインタビューでは、ここ2年ほど漂っていた「悲壮感」と対照的な「笑顔」が印象的でした。この4試合でもボギースタートの悪い流れは相変わらずでしたが、そこからの「カムバック力」を身に付け、逞しささえ感じる姿に期待が持てます。4日間の戦いを69・68・68・69と安定したスコアで終えましたが「ビッグスコアが一日でもあれば」と思わせる内容に変わってきました。
この試合で8位タイに入った石川は13位で来季のシード権を獲得したのです。初戦以降は3戦連続トップ10入りと、初ものづくしの環境の中、上出来の結果といえるでしょう。「去年や今年の序盤よりゴルフは良くなってきた。費やした時間は長かったけど、その分時間をかけて作ってきた自分のゴルフは崩れにくくなってきているのかなと思う」と語っていますが、自信に裏打ちされた戦う術は、苦闘の末に掴んだ大きな財産です「今年は、なかなか日本のファンの皆さんに良いニュースを届けられなかったけど、来年こそはと思っています」という力強い言葉に、石川の成長を感じます。
同学年の石川のPGAツアー残留を受け、松山は「お互い目指しているものは優勝なので」と話し「チームジャパン」として共闘し、頂点を目指すことを語っています。米ツアーで通算8勝のK・J・チョイや「メジャーチャンプ」のY・E・ヤンをリーダーに、韓国選手がチームとして行動し、異国の地で支え合い、高め合っている姿を見てきた石川も「そういうチームというのは大事。日本人同士で動けるのは心強い」と語っています。8月の「全米プロ」などで練習ラウンドをともにしていますが、移動や食事など米ツアーの1年先輩から得るものは多いだけに、松山も「遼は先にやってやり方も分かってきているだろうし、教えてもらいながら一緒にやっていきたい」と「チームジャパン」の結成を語っています。
石川にしてもPGAツアーに本格参戦した今季は、腰痛の影響もあってレギュラーシーズンではシードを得られなかったなかで、力になったのが同学年の松山の存在だといいます。「英樹が物凄いプレーをしてシードを確定しているので自分も頑張らなきゃという気持ちもあった。お互い切磋琢磨して来季もできるという、安心感は大きい」と話し、同じ舞台に立てることを喜んでいます。「状態が上がってきた形で秋からシーズンがスタートしてくれるので自分にとってラッキー」と、新シーズンの戦いを見据え「スポット参戦では自分の実力はわからない。こうして1年を通して戦って、入れ替え戦でこの位置にいる今の自分の実力がこれ。それがわかった」と、苦しかったシーズンを乗り越え、二人で臨む新たな挑戦にも期待が持てているようです。
「チームジャパン」候補といえば「日本ゴルフツアー選手権」を制した小平智と「長嶋茂雄インビテーショナル・セガサミーカップ」で復活優勝を果たした薗田俊輔でしたが、期待の新星が現れました。「 パナソニックオープン」を、終盤の逆転で制した20歳の川村昌弘です。「皆さんお疲れ様でした」の一言で始まった優勝スピーチは、大ギャラリーから思わず笑いを誘いました。童顔ですが穏やかな口調は、戦いを終えたトップアスリートとは違う個性を感じます。ゴルフを始めたのは5歳の時で、ジュニアがプレーする環境が整っていなかった小学生が、自らお願いすることで門戸を開いてくれたのは地元、亀山市のパブリックゴルフ場でした。朝から晩までクラブを振り続け、トップアマとなり、福井工大付属福井高校時代には小平や松山とともに「ナショナルチーム」のメンバーに選ばれています。フィーリングを重んじ、いつも思い描くのは「どうやってボールを操るか」という一点のみで、小さい頃から「スイングを作ろうとしたことがない」と語る個性派です。手首を柔軟に使い、バックスイングが強くクロスに入る変則スイングですが「これで良いスコアが出るのに、なんで直さなきゃいけないのか?」と、アドバイスは聞いたことがないといいます。専属のプロコーチから教わるのは、コースマネジメントやツアーでの戦い方といったことで、ビデオカメラで自らスイングを撮影したことは「1度もない」といいます。「好きなようにやってきた。教えてもらうことは好きじゃない」と語りますが、ラッキーカラーは黒で、ボールも黒以外の色で数字や文字が入ったものは使わないという、かなりのこだわりを持っています。どんなに日差しが強い夏場でも、最終日は上下、黒ずくめですが「何物にも染まらない。黒なんで」と語りましたが、アジアンツアーとの共催競技での勝利で、両ツアーでの2年シード権を獲得しました。「世界で戦いたい」と夢を語る「チームジャパン・NO1」の個性派の誕生です。
(サミーオオタカ)
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