打ちっぱなし

第93ホール JGTOの新規定に見る…
JGTOの新規定に見る“日本ツアーへの危機感”
米国男子ツアーの2014-15シーズンの開幕戦「フライズドットコムオープン」3日目を終えて4打とリードを広げたベ・サンムンが、サンデーバックナインに入り11番から14番までの3ホールで3パット(その内2ホールはグリーン外から)とパッティングに苦しみますがPGAツアー2勝目を飾りました。ベ・サンムンは最終18番でも短いバーディパットを外し、最終日を「73」の1オーバーとしましたが、6月の「フェデックス・セントジュードクラシック」を制したベン・クレイン以来、最終日にオーバーパーを記録しながら優勝した選手となりました。最終日に「67」を記録したスティーブン・ボーディッチが2打差で2位。ハンター・メイハン、レティーフ・グーセン、ブライス・モルダー、松山英樹、マーティン・レアードと3位タイでフィニッシュ。松山は、2年続けて3位タイで初戦を終えたことになります。
しかしグリーン上で松山が浮かべたのは、苦悶、落胆、そして最後は苦笑いでした。最終日を7位からスタートした松山は、優勝を目指しショットでチャンスを作り続けますが、前半はことごとくバーディパットがカップに嫌われ、折り返した12番で1mを沈めたのがこの日初めてのバーディでした。続く13番で1.5mのバーディパットを外すと、両膝に手をついて悔しがり、16番パー5でも1m強のバーディパットを外してしまいます。17番でこの日2つ目のバーディを奪うと、最終18番パー5は2打目でグリーン奥のカラーまで運びます。約9mのイーグルトライは、カップ寸前で読みとは逆の右へと切れバーディでホールアウト。結局カップに沈んだバーディパットは3つだけで、1ボギーの「70」と2つスコアを伸ばす通算12アンダーは、優勝したべ・サンムンに3打届きませんでした。
松山は「入っていないけど、そんなに悪いとは思わない。パットを外し続けても3アンダー、4アンダーくらいで回れるショットがあればと思う、13番から16番で2個くらい取って、最後のイーグルパットが入っていれば優勝のチャンスがあった」というのは事実ですが、スイングイメージを変えた中で、さらに休養後の初戦を考えれば、3位という成績は好スタートといえるでしょう。4日間で松山の「ショットのスコア貢献度・ストロークゲインドティtoグリーン」は1.997で堂々の1位でした。逆に「パットのスコア貢献度・ストロークゲインドパッティング)は0.212で45位とパッティングが問題なのは明らかでした。
開幕戦の最終日を「71」で回った石川遼は、通算8アンダーの19位タイ。昨年を上回るトップ20で4日間の戦いを終えました。前日までにパー4で2度イーグルを奪っていた石川は、この日もアイアンで好ショットを連発。2番は3パットのボギーとしますが、続く3番からは1.8m、2m、80cm、60cmとピンに絡めて4連続バーディを奪取。通算10アンダーとスコアを伸ばします。折り返した11番パー3はグリーン左奥に切られたピンに対して「6Iと7Iの間の距離だった、前の10番で良いショットでバーディを獲って、アイアンの距離感にも自信があったし、変に手前5mとか下の段でも良いと思って打つことは出来なかった」と、6Iで攻めますが、風にも影響されて大きくグリーン奥へとはねてダブルボギーを叩き「流れが変わったかもしれない」と、その後は最後までパーを重ねるラウンドでしたが、右足からアドレスに入るルーティンに変えて、着実にステップが上がりつつあることを実感した様です。課題に挙げたのはロングパットの距離感でしたが「自分に多く求めすぎてもパンクしちゃう。結果に関しては、良くても悪くても受け流す感じでいいのかな」と、開幕戦を振り返っています。
2011年に日本ツアーで3勝を果たし、賞金王に輝き12年からPGAツアーに挑戦したべ・サンムンですが、14年シーズンは17試合に出場し、トップ10入りを1度も果たせない時期がありました。昨年の「HP バイロンネルソン選手権」でツアー初優勝を果たした後、優勝争いから遠ざかっていたのですが、韓国や日本で戦っていた頃よりもゴルフが上手くなっていることを自覚しているといいます。「日本は優しかったですね。易しかったじゃないですよ」と、流暢な日本語を話しますが、PGAツアー参戦1年目から、英語での会話も問題なかったといいます「日本はコースのメンテナンスが素晴らしく、それからみんな親切で、環境が良かった。なによりも食事面で困ったこともない」と、日本ツアー時代の思い出を日本語で語り、「こっちの生活はまだ慣れないんですよ」と、厳しい3年目のPGAツアー転戦を振り返っています。
「食事って慣れますかね?たぶん慣れとかじゃなくて、根本的な問題」と、キムチを代表とする辛いものが食の基本にある韓国人のベ・サンムンには、米国の甘めのバーベキューソース、甘いパンなどがいつになっても口に合わない様です。「PGAツアーの設定はどこも難しいです。でも、この環境で続けることで確実にレベルアップしていると思います。調子の良い悪いではなく、いろんなコースで戦うので、どんな状況にも適応していくことが大事だと思います。4日間戦いを続けていく中でチャンスがあれば優勝もできると思っています、でもまた日本に行きたいですね」と、昨年の国内最終戦「ゴルフ日本シリーズJTカップ」に出場して以来の日本ツアー参戦についても語り「若い選手たちが頑張っていますよね。あまり交流がないですが米ツアーを挑戦したいという選手もいると思うので、いろいろ相談に乗ってあげたいですね」と、日本から米国と順調にステップを上がっている先輩として、日本人のPGAツアー挑戦を心待ちにしていることも語っています。
翌週「シュライナーズホスピタルforチルドレン」に出場した松山は、会場でタイガーがホストを務める「ヒーロー・ワールドチャレンジ」への出場を発表しましたが「ゴルフ日本シリーズJTカップ」の開催週と重なり、今年から5試合となった国内男子ツアーの出場義務試合数を満たせないことが事実上確定しました。規定では「理由を精査した上で最終決定する」という猶予が与えられていますが、もし規定通りの罰則を受けるとなると、2013年に賞金王になって獲得したシード権は1年間停止され、15年に国内男子ツアーに出場する場合は、主催者推薦に頼らざるを得なくなります。松山は「迷いはなかったです。フィールドが厚い舞台でやることは自分が求めていることだし、参加する18人のメジャー優勝の合計“21”という数字を見れば、そこで勝つことができれば、もっともっとメジャーで勝つ力もついてくると思うので」と、毅然とした態度で答えていました。
松山が目指す「日本人初のメジャーチャンピオンになる」ことで、世界の頂点を極めその上で国内ツアーに参戦すれば、日本のゴルフ界はもっともっと盛り上がるに違いありません。しかし、松山が国内ツアーを軽視している訳ではなく「今年に限って5試合を満たすのは難しくなったけど、決められたことなので守らなきゃいけないと思う。自分はやりたいようにやっているわけで、試合数を満たさないっていうことで罰を受けるなら、受けなければいけないと思う」と、この選択に対す罰は甘んじて受けるつもりだとも語っています。
JGTOが変更した出場義務試合数を定めたトーナメント規定とは、複数年シード保持者(賞金ランキング1位、国内メジャー優勝者、ワールドカップ出場者)と海外ツアーメンバー(米国ツアーと欧州ツアー)に年間5試合の出場義務試合数が課され、その試合数に達しない場合は翌年1年間の同資格は停止されるというものですが、推薦等、他の資格での出場は可能ということです。松山が出場を表明すれば、スポンサーは推薦出場を選択することになるでしょう。石川はこの新規定を「将来にとって悪いことだと思う」と指摘していました。「マンシングウェアオープンを勝って今の自分があるし、日本ツアーに対して恩を感じている。その恩を返したいしツアーに貢献したいと思っていますが、日本の試合に出たくても出られなくなることがある」と、持論を表明していました。
「世界一の舞台で活躍する選手がいないと子供たちはゴルフに憧れを持たない。英樹と2人でメジャーのトップ10に入るようじゃないと、日本の子供たちにインパクトを与えられない」。そのためには、もっと多くの日本人選手が海外挑戦できる環境が必要で、「このルールによって、海外に出にくくなると思う」と、感じている様です。すでに米国ツアーに挑戦中の石川ですら足かせと感じるなら、後に続こうという選手たちはそれ以上にこの規定を重く感じるはずで、将来を見据えたものではなく「その場しのぎに思える」と語る石川の強い言葉を、国内目線の他力本願で足かせルールを推進したJGTOの海老沢会長は「日本ツアーへの危機感」と受け取るべきでした。
松山は「来年以降も5試合の出場を前提に米ツアーの日程を組むか?」と聞かれると「それはない。こっちのスケジュールで考えて、そこで余裕があれば出るという形でやっていきたい」と、適用された段階で誰にメリットがあるのか分からないルールは「松山に罰則適用」という事実を無意味に作りだし、ただ日本ツアーの苦境を浮き彫りにすることとなりました。松山が日本人選手として初出場する同大会は優勝賞金100万ドル(賞金総額350万ドル)で、出場選手は18人。出場資格はディフェンディングチャンピオンと現メジャーチャンピオン、世界ランキング上位選手に加え推薦枠が2選手で、松山は世界ランキング枠での出場となりました。またこの試合は、今年の「全米プロ」以降トーナメントに出場していないタイガーの復帰戦となり、注目が集まる大会です。
「シュライナーズホスピタルforチルドレン」の開催週、母国では「日本オープン」が開催されました。共に出場権を持ちながら「ナショナルオープン」の欠場を選択した石川と松山ですが、国内メジャーで未勝利の松山は「日本のナショナルオープンだし、一番大きい大会で勝ちたい気持ちは強い。だけど、今はそれ以上にアメリカの試合で勝ちたい。日本のメジャーを獲った人はいっぱいいるけど、アメリカのメジャーを獲った日本人はいない。どこの国の選手も母国のナショナルオープンを大事にすると思うけど、自分はメジャー優勝を目標にやっている」と、PGAツアーを選択した理由を述べています。
石川にとっても今年の大会が開催される千葉CC梅郷Cは小さい頃から出入りして、お世話になった思い出深いコースで「僕がプロになった頃、メンバーさんから“ここで日本オープンができるように頑張るから”っていう話を聞いていたし、自分にとって難しい選択でした」と、苦しい決断を振り返っています。「でも今の自分のレベルでは、この開幕の数試合でしっかり頑張って来年に弾みをつけないといけないし、同時にこのフィールドはチャンスだと思う。もっと上の世界ランクで、来年のメジャーやWGCの出場権が完全に保証されているのだったら、日本オープンを選んだと思う」と、打ち明けています。
最終日を8アンダー24位で出た松山は1イーグル・3バーディの「66」でラウンド。スコアを5つ伸ばして通算13アンダーでホールアウト。優勝したマーティンとは6打差でしたが、10位タイと連続のベスト10入り。初日103位から2日目65位、3日目42位タイと追い上げた石川は、15番から最終18番まで上がり4連続バーディを奪い、通算10アンダーの28位まで順位を上げました。4日間のパーオン率はフィールド1位タイの83.3%を記録し、ショットの好調さを「明るい兆し」と語っています。2戦ともぎりぎりで予選通過をして決勝ラウンドで追い上げる展開ですが「ジュニアの頃から“スロースタート=かっこいい”みたいなのがあって、その癖が抜けきらないのかなぁ、でもPGAツアーではそんな余裕はないし、ほんのちょっと良くなってくれればいいんですけどね!」と石川に笑顔が戻り、二人の活躍が楽しみなシーズンがスタートしました。
サミー・オオタカ
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