Vol,47-(No.95)

 仕事で顧客先に赴いた際、ちょうど新しいスタッフが着任したばかりということで紹介され、名刺を出して「初めまして●●です。宜しくお願い致します」とご挨拶した。すると、「ミキですぅ~、よろしくぅ!」と返事された。営業マナーの欠片もない不躾さに驚きつつ、「あの、済みません、ご苗字は?」と訊いてやっと「▲▲ですぅ~」ときた。数日前、そこの社長さんから「30代の女性店長が着任します」と聞いてはいたが、こんな不遜な人間だとは思いもよらなかった。こちらはあくまでも仕事として伺っている。名刺を出して挨拶するのは通り一遍とはいえ、ビジネスマナーの根幹であり一般常識でもある。ビジネスシーンの初対面の挨拶に、『下の名前』で応対する彼女の無礼さに愕然としたのだった。ゲストハウスで会ったバッグパッカー同士ならまだ許せる。お互いが行きずりの関係だから、姓まで名乗る必要はないからだ。名で呼び合うことは、お互いがリラックスしていられる関係を築くための一つの手段だともいえる。ネットでもハンドルネームで呼び合う事で、個人特定しない自由な空気を造りだしている。名前や仇名で呼べば親近感が増すと思っている馬鹿者ともいえる。しかし、仕事で「ミキですぅ~」はないだろう。キャバ嬢ではあるまいし。
 結局その女性店長は使い物にならなかったのかどうか知らないが、10日ほどでいなくなった。雇用主である社長さんも彼女の件には触れたくないようで、話題にあがることは二度となかった。
 二ヶ月ほど経って、私の携帯にメールが来た。『覚えていますか?以前にお会いした者です。そちらの会社で求人をしていればお話を聞きたいです』という内容だった。名前も書いてないので誰なのか全く心当たりがなく、覚えているかどうかという次元ではない。電話番号を元に調べてみたら、その元店長ミキさんだった。この人はもう自分の『下の名前』すらも伝えられなくなってしまっているのか。採用などできるわけがないだろう、と思った。 ※「ミキ」は仮称です