Dr.久米の歯科コラム

Vol,85-(No.105) 歯医者に“遠慮”って?

Vol,84-(No.104) 医者とのいい関係 ②

Vol,83-(No.103) 医者とのいい関係

Vol,82-(No.102) 歯並びについて

Vol,81-(No.101) 読者プレゼント

Vol,80-(No.100) 謙虚になること

Vol,79-(No.99) 日本の歯科治療と日本文化

Vol,78-(No.98) 日本の歯科は遅れている

Vol,77-(No.97) インレー

Vol,76-(No.96) 上顎洞炎

Vol,75-(No.95) キッズデンタルパーク

Vol,74-(No.94) ワシントンの歯の苦労

Vol,73-(No.93) 口腔癌

Vol,72-(No.92) シュミテクト

Vol,71-(No.91) 感謝の気持ち

Vol,70-(No.90) 虫歯の原因って…

Vol,69-(No.89) 痛みなんかで…

Vol,68-(No.88) ご自分の歯の模型と治療記録

Vol,67-(No.87) インプラント

Vol,66-(No.86) ちょっと怖い歯周病があります

Vol,65-(No.85) タイのデンタルフェスタにて

Vol,64-(No.84) 歯の掃除って何回にも…

Vol,63-(No.83) 日本の歯科って…

Vol,62-(No.82) 子供1人産むと歯を1本失う

Vol,61-(No.81) ソンクラーンは情報収集

Vol,60-(No.80) 問診って大切です!

Vol,59-(No.79) 3D技術で顔面修復

Vol,58-(No.78) 電 話

Vol,57-(No.77) クリント・イーストウッドは…

Vol,56-(No.76) マウスピース

Vol,55-(No.75) ユマニチュード

Vol,54-(No.74) 帰国のシーズンです

Vol.53-(No.73) 入れ歯は完成した時が…

Vol,52-(No.72) タバコ

Vol,51-(No.71) いびき

Vol,50-(No.70) 民間の保険

Vol,49-(No.69) 子供の歯周病

Vol,48-(No.68) 道具を一つ増やしてみませんか

Vol,47-(No.67) 日本はすぐに神経をとる

Vol,46-(No.66) タイはすぐに歯を抜く

Vol,45-(No.65) リベース

Vol,44-(No.64) 女優さんと歯

Vol,43-(No.63) 日本で使われている…

Vol,42-(No.62) やはり知っておくべきです

Vol,41-(No.61) お医者さんに病名を言って…

Vol,40-(No.60) 下顎安静位

Vol,39-(No.59) 人生の流れで歯の事…

Vol,38-(No.58) 文化程度と歯の健康度

Vol,37-(No.57) ブリーチングは…

Vol,36-(No.56) 3Dプリンター

Vol,35-(No.55) ひどいニュースに…

Vol,34-(No.54) 過去のコラムをメールで…

Vol,33-(No.53) 医学知識がないと…

Vol,32-(No.52) 歯磨き後の口は…

Vol,31-(No.51) ステイン

Vol,30-(No.50) フロスと歯間ブラシ

Vol,29-(No.49) ピアスがあるから…

Vol,28-(No.48) 歯ぎしり

Vol,27-(No.47) 問 診

Vol,26-(No.46) ブリーチング

Vol,25-(No.45) アソアライナー

Vol,24-(No.44) 日本人は歯の健康状態が…

Vol,23-(No.43) 予約について

Vol,22-(No.42) ミニインプラント

Vol,21-(No.41) 乳歯でアンチエイジング

Vol,20-(No.40) 牛乳からつくった虫歯修復材

Vol,19-(No.39) フッ素のうがい薬

Vol,18-(No.38) うがい薬

Vol,17-(No.37) ペングリップ

Vol,16-(No.36) 電動歯ブラシってどうですか?

Vol,15-(No.35) ハミガキ

Vol,14-(No.34) 歯科の世界も国際化

Vol,13-(No.33) 前歯のコンプレックス

Vol,12-(No.32) 歯周内科

Vol,11-(No.31) 金属アレルギー

Vol,10-(No.30) スマイル入れ歯

Vol,9-(No.29) 入れ歯

Vol,8-(No.28) 歯の色の素材いろいろ

Vol,7-(No.27) 日本人は歯にたいしての…

Vol,6-(No.26) カスタマーとクライアント

Vol,5-(No.25) お得情報

Vol,4-(No.24) 丁寧にしっかりと…

Vol,3-(No.23) タイの歯医者さんと日本の…

Vol,2-(No.22) タイでも使える日本の…

Vol,1-(No.21) 話題になったコラムが…

ワシントンの歯の苦労

 現代の脳外科医が幕末にタイムスリップしたらという“仁”のことを話題にしましたが、その頃から過去の歯科事情に興味がわきました。医者の目線では器具や薬が不十分な中での医療行為という点、患者の目線では治療=苦痛そのもだという点です。今だったら歯に激痛があってもたいていは簡単に処置できますし、たとえ歯を抜くことになってもたいした痛みなどなく問題は解決されます。また「もともと医とはどう始まったか」という視点で見てもおもしろいものです。古代ギリシア時代は、サイエンスなどまだなく錬金術もどきの時代です。お医者さんの祖と呼ばれるヒポクラテスはそのころから医の倫理などを語っているわけです。時代によって移り変わるもの、時間の流れにかかわらず変わってはいけないものが現代と比較すると思いの外明確になってきました。

そんなこんなで有名人の歯科事情も調べてみました。本居宣長や滝沢馬琴、徳川家康などおもしろい話もありましたが、一番はワシントンです。1ドル札の人ですね。まずグッと噛み締めている口元が印象的です。彼は28歳で入れ歯になり、生涯歯の事で苦しんだようです。当時、入れ歯があったのかと驚きましたが、古代エジプト時代にもあったと聞いてさらに驚きました。1ドル札のワシントンは不機嫌そうな表情と言われていますが、しっかりと結ばれた口と下顎が少し(歯医者からみるとかなり)前に出ていて受け口状態なのでそんな印象を与えるのでしょう。彼は何度も入れ歯を作り直したようですが、最後の方は上の奥歯が数本残っているだけの“ほぼ”総入れ歯でした。今なら総入れ歯であっても落ちてくることはありませんが、当時は“吸着”という概念がなく上の入れ歯は簡単に落ちてきます。落ちてこないようにするために上下の入れ歯をスプリングでおさえることで対処していたようです。 つまり口を開けようとする力が常に働いている状態で、そうなるといつもその力を抑えるように“噛み締め”る状態になります。スプリングの力が強いほどしっかりとするでしょうが、反面押されている歯茎はひどい目にあっていたはずです。実際、ワシントンは歯茎の痛みに苦しんでいたようです。スプリングですからうっかりすると上下セットになった入れ歯が飛び出してきます。子供の頃、アメリカマンガで入れ歯が飛び出すシーンを見ましたが、当時の入れ歯事情を反映していたわけですね。1ドル札のワシントンが“グッと”噛み締めているのは入れ歯が飛び出さないようにしていたのです。歯医者は直接口の中を見ずに判断できる場合がありますが、ワシントンの入れ歯は上の顎と下の顎の位置が不適切に設定されています。歯のあったころのワシントンは下顎(オトガイ)がもう少し後ろだったはずです。タイのテレビで話題になったクシャおじさんなどは典型ですが、歯を失った人はどうしても前噛みになるようです。こんな状態だったら顎の関節が変形して下顎が外れやすくなってしまいます。歯のことでは苦労させられたワシントンですが、大統領としての人気は絶大で次期大統領選当選確実だったのにもかかわらず、立候補しませんでした。 晩年は、演説はもちろん人に会うのも嫌がったそうなので、入れ歯がその理由かもしれません。

 当時の入れ歯の材質ですが獣の歯を使っていたそうです。入れ歯は食事をするなどの実用のためではなく、見た目の改善が主目的だったので人と合う時だけはめていました。獣の歯で作られた入れ歯は腐ってしまい、現代の口臭どころではない酷い悪臭を放っていたので、その悪臭をごまかすために強い香水を使っていました。また中世のヨーロッパの絵画で、扇を持った女性が絵が描かれていますが、この扇は口の悪臭を飛ばすための物だったようです。なんだか幻滅するような話ですね。
 1700年代になると、この悪臭のある獣の歯の代わりに陶器の歯が使われるようになります。イギリスのウェッジウッドが作ったとあります。誰もが知っている陶器の有名メーカーですが、そんな会社が歯科材料にも関わっていたとは驚きました。そして1800年代にアメリカの歯科医師が吸着する入れ歯を発見しました。しかしこれがなかなか信じてもらえず認められるまで35年かかったそうです。たしかに上の総入れ歯が落ちてこないことを不思議に思われる人はけっこういらっしゃいますね。 スプリングのない吸着式の入れ歯のための素材として蒸和ゴム(硫化ゴム)というものがグッドイヤー兄弟により作られました。お馴染みのグッドイヤーも歯科に貢献してくれていたとは知りませんでした。

 ところでこのスプリングのない入れ歯ですが、日本ではかなり前から実用化されていたというから驚きです。入れ歯はツゲの木で仏像などを作ってきた器用な人が彫っていたそうです。その後、仏像注文の減少から入れ歯作りを生活の糧にしてきたそうです。学生時代に日本でツゲの入れ歯が作られていたと聞いた記憶がありましたが、「使い物にならなかっただろうけどね」と付け加えられていたのを覚えています。しかしちゃんと実用に耐え、奥歯がすり減っていたそうですからたいしたものです。木を彫ったものが口の粘膜にピッタリ合うなんて無理だと思いますが、入れ歯と粘膜の間に安定剤として和紙を挟んでいたようです。室町版ポリグリップ(入れ歯安定剤)といったところでしょう。日本の入れ歯事情も、なかなかものものだったんですね。

 元々コラムを書き始めたのはバンコクにお住まいの日本人にとって役に立つことを発信しようという思いでした。例えば「社会保険が海外の診療にも使える」などです。そのうち日本人の歯科意識をヨーロッパ並み、アメリカ並みにまで高められたらいいなと意気込んでしまい話が硬くなって読みづらかったと思いますが、今回のように読んだからといってためになるものでもないけれど、トリビアみたいな読みやすいものもいいかなと気楽に書いてみました。